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2006年12月26日 (火)

ウチ目均考(25)~市場規律

☆ 日興コーディアルグループの不正会計問題について考える時,公共財としての株式市場では,いったい何が守られるべきかという問題にまとまっていくように感じる。話の実態は,確かに「グレーゾーンを用いた出鱈目な会計処理」がまかり通っていたということであろう。これに対して一罰百戒的に断固たる処置をすべきだという声は,特に若い個人投資家層に多い。これに対して,一罰百戒が横行することへの懸念を唱える向きもいる。確かに今年の株式市場に暗い影を落としたのは,ライブドア事件の強制捜査から村上世彰の逮捕に至る「国策捜査」と呼べなくもない検察庁の強い姿勢にあった。特にライブドア事件の裁判過程をワイドショー的視点を一切拭い去って追いかけてみると,検察の法理に当初の勢いが無くなっていることが分かる。グレーゾーンを法がどう裁くべきなのか,これが来年早々に行われるであろうこの裁判の一審判決によって垣間見ることができるだろう。

☆ しかし,証券取引法を構成する要件の問題とは別に,資本主義国家にとって非常に重要な公共財である株式市場においては,いったい何が守られるべきなのかという問題がある。これは法規範というより社会規範の問題であるが,一般の市場参加者にとってはより重要・切実な問題だと思う。あたしの考えでは,株式市場において守られるべきものは,ひとことで言えば「その市場に対する信頼(信用)」であるだろう。それはあらゆる市場参加者(狭義の参加者である投資家のみならず,広義の参加者である発行会社(=上場企業),証券会社,取引所,監督官庁など株式市場における全てのステークホルダーを指す)の市場(資本市場,発行市場,流通市場)に対する「信頼(信用)」ということに他ならない。

☆ 日興コーディアルグループの不正会計問題をこの点で検証する。

(不正会計の内容)

・ 日興コーディアルグループの子会社が,特別目的会社(SPC)との取引に使った債券の発行日を偽装した。
・ さらに,取締役会議事録も改ざんした。
・ その結果,日興コーディアルグループの2005年3月期連結決算の利益が水増しされた。

(当初の指摘~日本経済新聞2006年12月16日号一面)

・ 2004年8月に日興コーディアルグループの子会社とその子会社(孫会社)との間でデリバティブ取引を行い,その結果,子会社は利益計上し,孫会社は同額の損失を計上した。しかし,日興は子会社のみを連結対象として,孫会社は連結対象外とした。これによって,日興は2005年3月期の連結経常利益の22%に当たる額をかさ上げした。

・ さらに日興は,この2005年3月期の財務諸表を開示資料として,05年11月に5百億円の社債を発行した。

(その後の経緯)
・ 日興首脳は当初子会社の「担当者が書類作成上のミスを取り繕うとしただけ」などと利益を水増しする意図や組織的な関与がなかったとの立場を取った。


☆ 問題となる点を挙げてみる。

(1)コンプライアンスの問題 =一般的なCSR(企業の社会的責任)の立場からの議論=

・ 子会社と孫会社との間の取引の適切性。
・ 会計監査人のチェック機能
・ 取締役会の機能=伝え聞くところでは社外取締役から問題点の指摘があったという。
・ 内部統制の問題:なぜ取締役会議事録のようなものが簡単に改ざんできたのか?常識的に考えて,一社員が改ざんを指導したとは考えられない。
・ 使用者責任:日本の経営者に求められる機能は,監査役(会)設置会社の場合,執行機能もある程度以上求められる。従業員がやったことという説明は,取締役の職務懈怠責任以外の何でもなく,そんなことを記者会見で平然と言える役員を持つ会社の従業員は気の毒としか言い様がない。

(2)市場から見た問題

・ 日興コーディアルグループは,単なるブローカー(仲介業者)ではなく,自己取引(ディーラー)部門や引受(アンダーライター)部門を持ち,市場への関係が密接なステークホルダーである。
・ そのようなステークホルダーが,コンプライアンス上問題があると思われるグレーゾーンの取引を行うこと自体が市場に対して,その信頼をあやめた点で厳しく責任を問われるべきことと考えられる。
・ さらに,問題の発生を公にすることもなく,使用者責任を棚上げして「社員がやりました」と堂々と会見する姿勢は,とうてい問題の重要性を認識していないものと考えられる。
・ その姿勢には,いち日興コーディアルグループの問題ではなく,東京市場全体の問題という認識の欠如がある。東京市場全体とは,市場に対する信任に傷が付いたという問題である。

☆ 結論

・ このように市場のステークホルダーである証券会社(特に引受部門まで備えた総合証券会社)には,一般の発行会社にも増して,市場の信任を維持していく厳しい責務が要求される。
・ 今回,日興コーディアルグループが行ったことは,このような市場の信任に泥を塗り,あまっさえ取締役がその責任の重要性を全く認識していないという点で,15年前に表面化した「証券スキャンダル(損失補填問題)」に勝るとも劣らない深刻な事件と断言せざるを得ない。
・ 東京証券取引所は,公共財としての市場の信任を維持していくためにも,このステークホルダーによる深 刻な規律違反に対して,市場からの撤退という処分を下すべきである。それには上場廃止しかあり得ない。

PS.あたしは,この記事を発表するにあたり,以下のことを宣誓します。

(1) あたしは日興コーディアル証券に稼働中の口座を持っています。

(2) 現在,あたし自身の取引で日興コーディアル証券のポジションはありません(現物・信用とも)

(3) あたしは年内(12月29日=大納会=)まで,自分自身の勘定(=口座)で,日興コーディアル証券株式の売買は行いません。ただし,来年(2006)の大発会以降は,この銘柄についてのポジションは明らかにしません。

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コメント

☆ チルチル さん。コメントありがとう。

・ おっしゃるように,昨日(26日)日経朝刊では小平龍四郎編集委員が,そのようなことを示唆するような発言を解説記事の中に書いていました。またかつての一部極悪商品会社ほどじゃないが,固定手数料時代には,手数料欲しさの「客殺し」と指弾されても仕方ないようなことをやって来た対面営業に飽きて,多くの人がネット取引に移っていったのも事実です。

・ 世界に不正のない業界はあるのか?。。。無いでしょう,たぶん。ただ不正のない当事者はいるでしょう。どっちを選ぶかです。キレイゴトで生きていけないのは,手嶋=佐藤本(お読みになりましたか?)でも明らかであり,そういう意味の「インテリジェンス」が国家戦略では必要となります。ハッキリ言えば上はバカでも途中をインテリゲンチヤが裏からしかと支えていればいい。ただ今のエリートではダメだということです。その「使命感」はやはりある程度キレイな処からしか生まれないんじゃないかと,あたしは思います。

投稿: deacon_blue | 2006年12月27日 (水) 18時06分

またぞろ不祥事ですが、日興ばかりじゃないでしょう。不動産業界なんか当たり前に吹っ飛びますからね。
まあ、客殺しが日常茶飯事の証券業界は自業自得でしょうね。
ところで、世界に不正のない業界ってあるのでしょうか?
最近ではサハリン2で公然と国家が嵌めてますしね。G8でしたっけね、あの国…。
目くじら立てる前に、そうした体制下でも儲けるタフさを私は求めたいなあ。

投稿: チルチル | 2006年12月26日 (火) 22時27分

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