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2006年10月18日 (水)

ウチ目均考(17)キャリー・ザット・ウエイト

アビイ・ロード Music アビイ・ロード

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☆ 日本経済新聞第43374号(10月13日(金)夕刊)7(マーケット総合2)面「十字路」にうわずり声でお馴染みのJPモルガン証券チーフエコノミスト菅野雅明氏が”「円キャリー・バブル」の行方”という一文を寄せている。このコラムは,先日もその反響を紹介したように,外為・短期市場の一部で話題となっていたので内容を紹介したい。

> 円は現在,企業の輸出競争力を示す実質実効為替レートで見て,1㌦=360円当時の1975年を下回り(JPモルガン試算),歴史的安値圏にある。

☆ これが導入部分。実質実効為替レートについての資料を探さないと何とも言い難い。ただ何も知らない段階でわかることは「円はその見かけよりも割安になっている」ことだ。たまたま今月の「私の履歴書」を元大蔵省財務官でいわゆる「通貨マフィア」の元祖でもある行天豊雄氏が書いていて,ニクソンショックの時に昭和天皇に円切り上げの件を奏上したら「通貨の価値が上がるというのは良いことではないか」という言葉をもらったというエピソードが書いてあり,昭和天皇も通貨価値を正しく認識していたことが分かり,興味深かった。さてそれは見かけ上のレートであり,その国の経済状態を加味したものが実質(実効)為替レートであると認識しているが,俗にマクドナルド(レギュラーのハンバーガーだかビッグマックだか)1個分をその国の通貨で換算するとどうなるかという比較がある。あれが実質(実効)為替レートだと考えているのだが,それでいいのかな?

(補足)内閣府資料「今週の指標」平成17年2月14日「606 より緩やかな実質実効レートの動き」 http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2005/0214/606.html によると,実質実効為替レートとは「内外物価上昇率の差を考慮するとともに円と主要な他通貨間のそれぞれの為替レートを、日本と当該相手国・地域間の貿易ウエイトで加重平均した指数」であると定義される。この資料自体は1年8ヶ月前のものであるが,対米ドル為替レートに比べて実質実効為替レートの方が,より円安に示されることには注目して良いと思う。

> この結果,第一に日本の輸出産業の収益構造が大幅に増益となった。第二に対外証券投資の投資採算が大きく改善した。高金利通貨建ての外国債券を購入した投資家は,高金利と為替差益を同時に享受した。第三に日本政府も通貨の運用益が拡大。その分、財政赤字を削減できた。

☆ この指摘は何となく当たっている感じがする。少なくともここ2年ばかりの輸出産業(業種のイメージは少し異なるだろうが「任天堂」がその典型ではないかと思う)の収益は,為替のゲタを履いていた。また,高金利=金利選好な投資家が堪忍袋の緒を切って外債投資に殺到し(本人達にその認識はないだろうから,具体的な商品名で例示すると)「グローバル・ソブリン・オープン」の残高は未曾有の5兆円に達したとか。。。(個人資産1,500兆円の300分の1が一投信に集まっているのだ^^;)第三の指摘は,例の溝口財務官時代の「円売りドル買い介入」時のドル貨をFB(米財務省短期証券)等で運用していることを指しているのだろうか。

> 海外の投資家も債務を円建てにすることで利益を得た。オーストリアでは円建ての住宅ローンが増加中とのことだ。また別の発展途上国では,利上げをしても債務者が低金利の円建て借入れにシフトするので,金融引き締めの尻抜けになっているそうだ。こうした円建ての債務と円以外の外貨資産を保有する投資行為を「円キャリートレード」と言う。

☆ 90年代後半に「グローバル・キャリートレード」という言葉があった。理屈は同じだが,例えばドルで調達した資金を東南アジアやロシアの市場で運用するという行為である。もともと小さな市場に海外からある日津波のように資金が押し寄せる。そうなると一瞬にしてカネ余りが発生し,物価は投機的になる(そういうのがバブル)。資産価値の上昇に根拠を持つ安直な取引が増え,市場はあっという間にヒートアップする。ところがこのギアがいったん逆回転し始めると,物凄いデフレーションの津波に洗われることになる。ロシアに投資していたLTCMが破綻し,韓国やタイはIMFの管理下に置かれる状況になる。それが97~98年の通貨危機だった。

☆ その頃日本は,例の「ジェノバ以来」という超低金利にあったもののデフレスパイラルへの不安が渦巻き,格下げの嵐の中にあった。これでは円貨で資金を調達しようにも不安でたまらないということで,まだキャリートレードは進んでいなかったのだろうと思われる。しかし2003年の「りそな銀行公的資金導入」をきっかけにようやくデフレスパイラルの影が退場し始めると,信任を取り戻した円のその金利水準の低さが注目されるようになった。この辺りはドイツ証券武者CIOが存分に書いているから,敢えて個々で解説するまでもないだろう(^^;)。

☆ 「円キャリートレード」は,円で調達した資金で外貨資産を購入する。購入するためには調達した円を購入する資産の通貨(ドルとかユーロとかに)に変えなければならない。だから円が売られる。そうすると円売り圧力が掛かり続ける市場の中で敢えて円買いをする必然性はない。そうして円が低位安定することになる。いつぞや紹介した「不適合営業おばちゃん」の仕組み債もこの構造が続く限り,早期償還おめでとうということになるのだが。。。

> 円の超低金利と円安傾向が長期間続いたため,投資家の間に円安と円の低金利持続期待が醸成され,円キャリートレードは世界的に拡大している。これはまさにバブル現象である。バブルは,当初は市場参加者全員に利益をもたらすので,便乗者が増え,その結果円安が加速するが,すべてのバブルはいつかは崩壊する。

☆ 去年から今年にかけてのバブルは,主として商品市場で発生した。既にアマランスのように破裂した例(投資ファンド・ヘッジファンド)も垣間見える。アマランスについても既に書いたが,天然ガス市場という池の中の鯨になって自壊した姿は,その昔の住友商事浜中部長(5%の男)を彷彿とさせるし,全く同様にLTCMの崩壊とも二重写しになって見えてくる。菅野氏の指摘の中で重要な部分は「バブルは,当初は市場参加者全員に利益をもたらす」ということで,これはバブルが初期では潰れない最大の理由でもある(無限連鎖講も実にこれに似ている^^;)。

☆ 円安が加速しているかと言えば実感に乏しく思えるかもしれないが,長期的な円の推移を見るとその指摘が正しいことに気付くだろう。どちらかといえば,円高に動こうとする時に感じるプレッシャーがだんだん重たくなっていると言えばいいのか。。。

> 過去のバブルの多くは金融引き締めショックで崩壊した。円安は日銀の超低金利政策が背景にあるが,拡大する円キャリートレードを軟着陸させるには,日銀は直ちにごく緩やかな利上げ,例えば毎月0.05%の利上げを開始すべきだ。対応が遅れると将来,大幅な利上げが必要となり,円キャリートレード・バブルの崩壊と急激な円高を招きやすい。

☆ この部分が反響を呼んでいるようだ。今分かっているのは,日銀は金利上げを考えている。ただそれはあくまでも「市場との対話」の中で,市場に「納得も得心もさせて」0.25%の利上げをもう一度,年末か年度内にはやりたいということだ。なぜもう一度なのかと言えば,今の誘導目標金利では「のりしろ」が一回分しかない。かつて速見日銀時代にゼロ金利政策を解除したもののタイミングが悪く,量的緩和政策まで呑まされたことが日銀の事務方にはトラウマとなっているからだ。菅野説に従えば,0.25%の誘導目標上げは,利上げ5回分の効果をもつことになるから,キャリートレードの連中にはいささか強すぎる刺激になる可能性がある。そこまで「市場の空気」を読んで,これを誘導する力量が白コアラ(=福井総裁)の日銀にあるのかは,菅野氏ならずともいささか疑問で(^^;),その疑念を以下に示しつつ,菅野氏は筆を置いている。

> しかし,日銀の金融政策の目的は国内の物価安定であり,国際的な円キャリートレード・バブルの軟着陸ではない。かくして円キャリートレードはさらに拡大する。

☆ まあ厳しい結論だ。ただ,円キャリートレード・バブルの崩壊は,一時的に世界の債券市場とおそらく商品市場を極めて不安定な状態に向かわせる可能性が小さくない。その二つの市場が大揺れの時に株式市場だけ安泰という訳にもいかない(アジア通貨危機の時がそうだった)。であれば,やはりこの指摘は看過すべきではないと思う。個人的には武者さんあたりの反論を聞いてみたいが,エコノミストとストラテジストは立場が違うから議論は噛み合わないだろう。

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