ウチ目均考(16)~アトキンソンへのふたたびの反論
今回の記事の元ネタ。
◇ 「TOKYOマーケットExpress」(平日12:00~13:12)
http://www.nikkei-cnbc.co.jp/program/marketex/
<アンカートーク>
10/12(木)「銀行株、反発の時期は?」
ゴールドマン・サックス証券アナリスト デービッド・アトキンソン
聞き手 : 小野利也(日経CNBC報道解説部次長兼アンカー)
Q: 銀行株をどう見ているか?
A: 時価総額はバブル時のピークとバブル崩壊後の最安値との中間にあり,非常に重要な分岐点と見ている。割安でも割高でもないところにあるが,これは日本経済が正常化する中で銀行株も正常化してきたと言える。ここからは,各行の経営改革がどう変わるのかによって,これが大きく上がるか上がらないかが決まってくると思う。
Q: 経営戦略評価のポイントは?
A: 二つの選択肢がある。ひとつはM&Aで国内外の会社を買収することや海外業務を強化するというもので,もうひとつは,国内のリテール戦略を強化し,そこで利益を伸ばしていくものだ。比較すると,前者はあまり評価できず,後者は評価できる。
Q: なぜM&A戦略は評価できないのか?
上場金融機関180社の利益構成比(オリジナルは円グラフ)
主要銀行(7行)=44.7%,地方銀行=20.4%,ノンバンク=14.1%,保険=5.6%,証券=15.2%
A: 上場金融機関180社の利益構成比を見ると,その中に占める主要銀行7行の比率は44.7%に達している。ここで仮に地方銀行の全てを買ったとしても,現在の主要7行の利益構成比の半分しか利益を伸ばせないことになる。同様のことを証券会社に対して行っても,3分の1しか利益を伸ばせない。だから,買収しても大きく利益が伸びることはない。さらに,国内金融機関のあげている利益があまりにも主要行に集中しているので,海外展開したからといって,大きく利益が増えることはない。
(考察)
☆ この説明には明らかなまやかしがある。アトキンソンは,利益構成比なる円グラフを示して論理を展開するが,そもそも06年度決算で主要銀行が空前の利益を出すことが出来たのは,業務純益が良かったからではなく,貸倒引当の必要がなくなったから,会計上の技法を駆使して公的資金返済の道程(みちのり)をつけるために作った決算であることは,日本経済新聞の普通の読者なら誰でも気付くことが出来た。
☆ このテクニックをわざと無視したのは,銀行は儲けるだけ儲けて預金金利を引き上げもしないという「風が吹けば桶屋が儲かる」式の三段論法を駆使して攻撃したがったええ格好しいの一部マスコミだけだと思っていたが,銀行株アナリストの中にまでそんな者がいたとは驚きだ。少なくとも職業的専門家が無視して良い与件では無いだろう。
☆ 更に言えば,シティとトラベラーズの合同を例に持ち出すまでもなく,現実的ではないとは言え,銀行がM&Aを考えるならば,別に上場企業である必要はない。もちろん相互会社という最悪の企業形態を別にしてだが,生命保険会社をM&Aの対象にしていけないという論理はない。極めて偏向した与件に基づく議論はもはや議論の体を成していない。まして「さらに,国内金融機関のあげている利益があまりにも主要行に集中しているので,海外展開したからといって,大きく利益が増えることはない。」の部分に至っては言語明瞭・意味不明瞭で何を言っているのか全く理解できない。いくら外国人だからと言って,論理的に説明出来ないことをもとに議論を進めるのは如何なものかと思う。
Q: なぜリテールを評価するのか?
(参考資料) 日米欧主要行の店舗数・従業員数・1店舗あたり従業員数
シティバンク (6,850店舗=300,000人=43.8人/店)
HSBC (9,800店舗=244,727人=25.0人/店)
バンク・オブ・アメリカ (5,800店舗=177,236人=30.6人/店)
ウエルズ・ファーゴ (6,250店舗=153,000人=24.5人/店)
三菱UFJ (895店舗=95,373人=102.6人/店)
みずほ (540店舗=64,782人=120.0人/店)
三井住友 (579店舗=53,696人=92.7人/店)
A: 今の銀行は,預金業務と住宅ローン以外リテールといえる分野をやっていない。海外行との比較でインフラを見れば分る。店舗数で見れば,CITIBANKは6,850だ。それよりも重要なのは人(従業員)の数で,小口の利鞘の厚いビジネスをやるために,数をこなさなければならないので,人が物凄くたくさん要る。銀行の店舗は(製造業の)一般企業で言えば「工場」であり,そういうモノを作る場所も人もないという問題を解決していかないといけない。銀行はリテール戦略をいろいろ言っているが,それを実現するだけの人が足りない。
Q: 人や店舗を増やしながらも収益が保てるような銀行でないと評価できないのか?
A: そう。金融業だから,人を中心とした業界なので,これからは人を増やしていかないと利益の成長はない。
(考察)
☆ この説明にも明らかな黙殺もしくはまやかしがある。CITIBANKの店舗数は,米国内外でどう異なるのか?シティとトラベラーズが合併した時に,店舗をどのように勘定したのか?ここにある店舗数は,銀行業を行う店舗だけなのか?仮にそうだとして,各店舗に雇用されている従業員数には正社員・パート社員・派遣社員の別はどうなっているのか。日本の銀行と比較した他行では同じ定義に基づく人員を比較しているのか?
☆ 考えてみれば分るが,日本の銀行で一店舗平均90人から100人いますと言われて「へえそうですか?」と思うだろうか?銀行に振込だの出入金だのに出掛けるOLさんなら気付くだろう。「そんなにいないと思いま~す。」従業員という時に,それは間接部門をどう勘定しているのか?営業店舗だけで考えているのか,そういうことの前提のない議論は「ためにする議論」でしかない。更にアトキンソンが例に出したバンカメリカやウエルズ・ファーゴといった地銀色の強い銀行の場合,その銀行の展開地域にも着目すべきだ。カリフォルニアや南部であればヒスパニック人口が爆発的に増加している。そこには新しいビジネスチャンスが開けている。この点で日本はどうだろうか?まだある。アメリカでは銀行員(特に融資等の商業銀行業務)の地位はこの10数年(米国はビッグ・バンではなく,メイ・デイだったと思うが。。。)に大きく下がってしまった。従業員を増やす場合には,たとえが悪いが,数年前に小売・金融業の丸井がやったように,従業員の大半を子会社に転籍させるような荒療治をした結果,コストの切り下げと交換してようやく対応できるような問題ではないのかと思う。
☆ あたしは数ヶ月前にアトキンソンが自分のレポートの中で,ある日,所用があって銀行の窓口に行った時,大した要件でもないのに非常に長い時間待たされたというエピソードをわざわざ書いていたのを読んだことがある。よもや自分が銀行で待たされた腹いせに,この主張をし続けて,日本経済新聞の「経済教室」などという本格的な論壇に投稿したり,日経CNBCの番組にわざわざ出演してまで言い続けるのであれば,自分の地位を良いことに私憤を公憤に置き換えてもっともらしい顔で喋り続ける㌧でもないDQNそのものだと認定していいのではないかと思う。
Q: 銀行の決算について(07/03中間・通期)をどう見ているのか?
A: 上半期に関しては,当期利益は若干上ブレをすると思うが,業務純益はあまり変わらない。前年度に比べると若干弱い数字になると思う。それよりもポイントになってくるのは通期予想だ。
(参考資料)
・各行の数字は左から順に当期利益予想(GS予想→I/B/E/Sコンセンサス→会社計画値)およびGS予想との差(対I/B/E/Sコンセンサス→対会社計画値)
三菱UFJ (101億円,88億円,75億円 : 14.4%,34.9%)
みずほ (76億円,74億円,72億円 : 3.6%,5.8%)
三井住友 (68億円,65億円,57億円 : 5.9%,20.0%)
りそな (35億円,34億円,30億円 : 2.5%,17.5%)
住友信託 (11億円,11億円,11億円 : 0.4%,8.6%)
三井トラスト (14億円,13億円,12億円 : 8.5%,16.7%)
新生 (9億円,8億円,8億円 : 4.4%,3.0%)
Q: なぜ強気に見ているのか?
A: 下半期になると,金利上昇(ゼロ金利解除)を受けて利鞘が改善してくるからだ。よく「法人に対する貸出は競争が激しくなかなか利鞘が稼げない」という話を聞くが,それは単純な誤解ではないか。と言うのは,銀行に対して「利鞘は拡大するのか?」という質問をする場合に,質問を受けた銀行側が「市場金利に対する貸出利回りが改善しているのか?」と理解して回答することがある。この利鞘(市場金利に対する貸出利回り)が悪化しているのは事実だが,これは日本経済に対する格付が上がることで縮小するはずだ。
それよりも問題なのは,この貸出利回りに対して,預金利回りがどうなっているかということだ。ここに焦点を当てて考えないと誤解してしまうが,これに関しては下半期に改善することは,ほぼ確実だ。
Q: すると上期に比べて下期はずっと良い業績になるのか?
A: そうですね。
(考察)
☆ このブログを見ている銀行マンにお願いしたい。上記アトキンソンの認識は真実のことか?それとも銀行の現場では「法人に対する貸出は競争が激しくなかなか利鞘が稼げない」という状態は変わっていないのか?ここは現場のリアルな声で考察したいので,出来ればコメントで教えていただければ幸いに思う。
Q: では銀行株に対してはどう評価するのか?今後どう動くと思うか?
A: 最近,金利が思うように上昇しないとか利鞘は本当に改善するのかと言われているが,下半期になると改善するのはハッキリしてくる。今まで17年間銀行株を見てきたが,利鞘が改善すると若干アウトパフォームする傾向が確認されているので,下半期に入るとマーケット(平均)に対して少しは良くなっていくと思う。
Q: 今はハイテク株などが買われているようだが?
A: 銀行株セクターは他のセクター並みか若干良いという程度だろう。
Q: 個別銀行では注目しているところはあるか?
A: これから銀行株を見ていく時に,店舗を増やすこと,バイトやパートで実際に銀行業務をやる人を増やす銀行に注目していきたい。そうすると大手の中ではみずほFGは,店舗を100増やす計画をこの下期から本格化してくるので,下期から来年度にかけて注目していきたい銘柄だ。地銀では同様の理由で横浜銀行。向こう2年間で店舗を11%増やす計画があり,既に一部出店を始めており,予想以上に実績が上がっている。地銀セクターは強気で見ていないのだが,その中で相対的に横浜銀行を強気で見ている。
Q: スルガ銀行はどう評価するか?
A: 割合小規模の地銀だが,独自の戦略を持っている。女性や外国人に対する住宅ローン貸出を増やしたりしており,成長性に期待したいということで相対的に魅力があると思う。
(考察)
☆ 個別についてはコメントしない。ただ偶然とはいえ,アトキンソンの演説の翌日に福岡銀行が九州親和FGを傘下に収め北部九州におけるパフォーマンスを高めるようなM&Aを発表していたのは興味深かった。
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