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2006年9月28日 (木)

同和鉱業の株主安定化策と平等原則 感想

☆ これはアメブロのassetmentさんのブログからリンク元を辿ったもの。ビジネス法務の部屋というブログの9月3日号に掲載されている。ブログ内容は,企業法務の実務化向けの内容であるが,この問題は株式投資とも係わりがあるので読みながら考察してみたい。

☆ 日本経済新聞第43352号(2006年9月20日水曜日)第17面(投資・財務2面)に,この「問題」を特集したインタビュー記事がある。(聞き手:横山雄太郎)インタビューの対象は二人で,ひとりは同和鉱業の吉川広和社長,もうひとりは西村ときわ法律事務所の山口勝之弁護士。導入を決めた発行会社の代表取締役とスキームを考えた法律事務所の実務家という組み合わせは興味深い。

☆ 山口(勝)弁護士によるスキームの説明は以下の通り。
(1) 過去3年間,株式を長期保有したから新株予約権を無償割り当てするというわけではなく,9月30日時点の株主に株式数に応じて同じ内容の新株予約権を無償割り当てし,長期保有した株主だけが新株予約権を行使できるスキームだ。
(2) これ(注:平成18年9月30日=権利確定時期としては9月25日)以前に株を買う権利は平等で,それ以後に長期に持つかどうかの判断権も平等に与えられている。希薄化は限られ,無償割り当てを受けた株主もそうでない株主も,不利益を蒙る恐れはない。

☆ 早速,山口利昭法律事務所のウエブログ「ビジネス法務の部屋」(2006年9月3日(日))を読む。まず議論のスタートとして山口利昭(以下「山口(利)」)先生はこう始める。

> 同和鉱業(株)が、3年間継続して株式を保有した株主に行使を認める条件付きの新株予約権(保有株式1株につき0.05株)を11月に無償割当されるそうです。「株主還元策」ということですが、実質的には「株主安定策による敵対的買収防衛策」といった意味合いが強いのかもしれません。いろいろなブログを拝見しましても、また株価動向を見ましても、株主還元策としては画期的であり注目に値する、とのこと。持株会社制への移行の時期とも合わせた公表タイミングもあって、比較的評判がいいみたいです。
> そもそも「3年間保有した株主だけに行使を認める」という行使条件付きの新株予約権の無償割当というのは、株主平等原則に反することにはならないのでしょうか。
> 会社法では109条で平等原則が規定されておりますが

=【参考】会社法第109条(株主の平等)
第1項 株式会社は,株主を,その有する株式の内容及び数に応じて,平等に取り扱わなければならない。
第2項 前項の規定にかかわらず,公開会社でない株式会社は,第105条第1項各号に掲げる権利に関する事項については,株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
第3項 前項の規定による定款の定めがある場合には,同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる株式とみなして,この編及び第五編の規定を適用する。=

> 企業の資金調達の多様性を重視する立場から、あまり平等原則を厳格に考えることはせずに、合理的な範囲での取り扱い上の差別化は許容範囲にある、とみる見解が通説的だと思われます。

> ただ、なにが不合理な取扱に該当するか、といいますと、たとえば支配株主が多数決原理を濫用して、少数株主に不利益を与えるような取扱などは、許容されない平等原則(つまり平等原則違反としての不公正発行)に該当する可能性があるようですね。

> このあたりは昨日発売されました江頭憲治郎教授の「株式会社法」124頁から126頁あたりでも、「株主平等の原則とその限界」「株主の義務-誠実義務」あたりで少し論じられているところであります。

☆ この指摘に対して,制度設計者である西村ときわ法律事務所の山口勝之(以下「山口(勝)」)弁護士は前記日本経済新聞のインタビューの回答としてこのように回答する。

>「過去3年間,株式を長期保有したから新株予約権を無償割り当てするというわけではなく,9月30日現在の株主に株式数に応じて同じ内容の新株予約権を無償割り当てし,長期保有した株主だけが新株予約権を行使するスキームだ。これ以前に株を買う権利は平等で,それ以後に長期に持つかどうかの判断権も平等に与えられている。希薄化は限られ,無償割り当てを受けた株主もそうでない株主も,不利益を被るおそれはない」

☆ 山口(勝)先生の回答は(はは。。。同姓だからメンドーだな^^;),山口(利)先生の指摘を意識した質問に対するものだけあって論旨明快だ。ただひとつ引っ掛かることもある。平等を論じる対象となる株主についての理解に行き違いがあるのではないか?

☆ 制度設計した山口(勝)先生は,あくまでも本件(株主に対する新株予約権の無償割り当て)そのものを基準とし,対象となる株主の確定日(9月25日)からほぼ1ヶ月の「通知期間」を設けているから,その間に同社の株主になって新株予約権無償割り当ての対象となるかならないかは,各投資家の「自由だ!」なのであるから(笑)株主平等原則には触れていないという見解なのだろう。これに対して問題提起した山口(利)先生は,「基準日」ともいえる9月30日に株主だった人とそうでなかった人(後から株主になった人)との間の平等を問うている気がする。

☆ このように3年間保有したから新株予約権が発生するということの是非を問うている山口(利)先生と保有の前提となる「基準日」に株主であるかないかについては事前に「公告」しているのだから平等に反しないという山口(勝)先生との認識は,最初からすれ違いの感がある。ところで株主とは投資家でもあるから,投資家という「現金な存在」の立場からは,こんな疑問もある。3年間保有したことをどうやって証明するのか?

☆ この間の抜けた質問への回答は「それは実質株主名簿を見る以外事実上方法がない」ということになるのは百も承知だ。要するに自分の手元に名義書換を済ませた株券を持っておく人やそれを証券金融に持ち込んだり,信用の担保にする人のことは両先生とも考えてはいないだろうということ。勿論,証券金融会社や証券会社がカタに取った株券を名義書換し(保管振替機構の自社名義口座に入れ)た瞬間に,元の持ち主の権利は消滅する筈である。。。が,名変はともかく実質株主の場合,実務上それが確定するのは次の期末(基準日)ということになる。

☆ 我々でも優待取りでよくやるのだが,権利が確定した翌日に持株を売って(信用では売らない。この期間の逆日歩が結構な金額になることは寅年の獅子座マーケットコメントにもあるけど^^;)また次の権利確定日以前に同株数以上買い戻したらどうなるのか?こんなセコイことを法曹家は考えないだろうが,投資家とはそこまで考える種族なのである(苦笑)。

☆ しかしそんな門外漢のおバカな疑問と関係なく,山口(利)先生の考察は続く。

> そもそも会社法は法定保有期間要件(差止請求権を行使できる株主の保有期間要件など)を個別に規定して、その平等原則の例外を定めているのでありますから、法定されていない場合の持株数に比例しない株主の権利の差別化は認められない、といった理屈も成り立つのかもしれません。

> もう少し実質的に考えてみますと、保有期間3年で新株予約権を行使できる、という条件で毎年一回、同じ比率で割当を続行するとして、全株式の半分に該当する株式は流動性があり、半分は支配株主がそのまま保有した場合には、10年後には支配株主は約58%の株式を支配できることになり、20年後には約68%を保有できることになります。

☆ この議論は,山口(勝)先生に対するインタビューでは触れられていない。あくまでも投資・財務面からの考察であるから仕方がない訳だが,企業法務の実務として考えた場合には興味深い。投資家は上に書いたように,自分の都合で長期保有をあっさり短期で売ってしまう(昨日のあたしもそれ^^;)。また買い戻すからいいさなどとお気楽に考えているが,実際にはこれがなかなか難しい。昨日書いたおばちゃん投資家ではないが,投資家ほど目移りの激しい浮気者も少なくないからだ。しかし,これが政策投資先だったり持ち合い株主だったり親会社だったらどうなるか?

☆ 彼等には株式を売却するというインセンティブは働かないのだから,保有期間が長くなるほど新株予約権無償割り当ての対象は増加し,それを行使しない手もないだろうから,それが続く限りそれこそ「転がる雪だるま」状に保有株数は膨れ上がっていくことになる。

> たしかに、どの株主でも3年間保有すれば新株予約権を行使することができるわけですから、経済的な利益という面では平等に取り扱われている気もしますが、会社を支配しうる株主とそうでない少数株主とでは支配利益という意味でいえば長期保有へのインセンティブには大きな違いがあるわけでして(そもそも1億円ほどの株式を保有している場合でも、3年度に同じ株価であっても500万円分ですから、これが短期売買を目的とした人たちに長期保有を勧めるだけの動機付けになるのでしょうか。

☆ そう考えると山口(利)先生のこの指摘は全面的に正しい。だが,山口(利)先生は続けてこうも書く。

> やはり会社支配の意欲が上乗せされていなければそうそう長期保有を決定付ける理由にはならないようにも思えますが)、そうであるならば(これが一回かぎりのお祭り行事ということでしたら別でありますが)この無償割当は少なくとも支配株主による資本多数決濫用のおそれのある制度ではないかな・・・・・とも思ったりします。

☆ ここがポイントだと思う。同和鉱業が今回実施したのは「一回かぎりのお祭り行事」なのか否か。どうもそうじゃないのかなという感じがするのだ。というのは,山口(勝)先生はこうも答えているからだ。

>「新株予約権の行使で大量の1株未満の端数が出て,株をもらえる株主と,そうでない株主がいるといった不平等が生じるのが心配だった。そこで端数は現金処理で対応し,株自体は手にできない株主でも端数に見合う現金を受け取れるようにして財産的価値の点で平等になるようにした。」

☆ このニュアンスからは継続的な実施の気配はあまり感じない。また,山口(勝)先生と同じ記事のインタビューに答えた同和鉱業吉川広和社長はこのように指摘している。

>「当社を長期間支援してくれる応援団を確保するのが狙いで,配当とは意味合いが違う。最終製品を作っていないので株主優待もやりにくい。何か新しいことをやってみたいという気持ちもあった。」
(買収防衛策ではないのかという質問に対して)
>「個人株主や安定株主が増え,結果的に防衛効果が出ることは経営者として期待しないわけではない。ただこのスキームを防衛目的に使うのなら3年保有で5%程度の還元ではなく,5年保有で20%還元にするといった方が効果的だ。いずれそういう使い方をする企業が出てくるだろう。」

☆ うーん。ここはホンネが出てるなと思う。また「5年保有で20%還元」というスキームは,山口(利)先生の発言を借りれば「たとえば支配株主が多数決原理を濫用して、少数株主に不利益を与えるような取扱などは、許容されない平等原則(つまり平等原則違反としての不公正発行)に該当する可能性があるようですね」という感じがする。

☆ 最後に「株主優待制度」についての指摘を。まず,山口(利)先生。

> 株主優待制度というものは、あくまでも株主への経済的利益の平等配分の是非が問題となっている点で、また同じく株主還元策といわれている「自社株買い」というのは、あくまでも法令で認められている制度を利用したものである点で、こういった長期保有株主だけに株式を付与する制度とは異なるもののように思いますが、いかがでしょうかね。

☆ これに対する山口(勝)先生の意見。
(単純に株主優待にしなかったわけは)
>「優待制度は多くの企業が導入しているが,会社法上許される範囲に限界があるのではないか。優待を定める法律はないが,あえて解釈するなら(注:今回の新株予約権無償割り当ては)現物配当の一種。配当ならば株主総会の決議が必要で(注:旧商法と思われるが?)持ち株数と正比例しなければならない。一般的な株主優待は必ずしもそうなっていない。保有期間に応じて異なる内容の配当をすることも会社法上禁止されている。」

☆ うーん。最後まですれ違った議論と感じるのは,あたしだけ?

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コメント

そこがポイントですね。
議論をかみ合わせないようにしているw

山口(利)弁護士のウェブログは何度か拝見したことがありますが、フェアな方だなぁという印象があります。
実名で執筆されているからには仕事の関係上書きにくいことも出てくると思うのに。。。
と、HNで好きなことを書いている私などは思いました^^;

投稿: inaken | 2006年9月28日 (木) 17時58分

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