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2006年6月 3日 (土)

秋霜烈日2

☆ ここに一冊の本がある。『ヒルズ黙示録』(大鹿靖明)

☆ このドキュメンタリーについては,肯定的な評価と否定的なそれとが相半ばしている。ノンフィクションの常として,踏み込みにくい場所にも踏み込んでいることと,裏を取れないまま発表しているところもあるだろう。先日は検察庁に近いスタンスでこの問題や村上ファンドの問題を取り上げたが,それだけでは片手落ちだ。この本を読んで特に最後の部分では,検察の組み立てているストーリィに無理があることを指摘している部分があり興味深い。

☆ 村上ファンドのニッポン放送株取得について,ニュースや新聞で報道されている内容とこの本で書かれている内容のどちらが真相に近いかと問われれば,この本に軍配を上げざるを得ない。例えばさっき見ていたNHKのニュースは,村上ファンドがライブドアの時間外株取得の計画を知ってニッポン放送株を買い集めたというインサイダー取引疑惑があると報じているが,この本で書いているように欽ちゃんが堀江に話をもちかけたのが真相だ。ただし,話を持ちかけてライブドアが突貫工事で例の買付けスキームを作り上げた時期にMAC(村上ファンド)がニッポン放送株を買っていたのであれば,検察の立件はその点では有効であることを書き添えておく。

☆ ところで大鹿が『ヒルズ黙示録』の最後の部分(第7章IT許永中 P.319)で佐藤優がその著『国家の罠』でこんなことを書いていることを紹介している。

☆ 2002年5月に東京地検特捜部に逮捕された経験をもつ外務省のラスプーチン,佐藤優(起訴休職中外務事務官)も地検の元特捜部長と同じような時代観をもったうえで,この事件の捜査を「国策捜査」ととらえている。佐藤によれば,国策捜査は「時代のけじめとして検察が象徴的に作り上げた事件」と規定している。佐藤は著書『国家の罠』の中で,取り調べに当たった西村尚芳健二からこう言われたことを記している。
>「これは『国策捜査』なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。(中略)国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために,何か象徴的な事件を作り出して,それを断罪するのです」

☆ これを受けての大鹿の分析は卓見である。

☆ ライブドア事件は,規制緩和が進んだ新自由主義の行き過ぎを是正するうえで,起きるべくして起きた事件といえる。堀江が規制緩和と過剰流動性というカネ余りを享受した時代は,銀行の不良債権問題に起因した日本の長期不況と重なり合ってきた。しかし竹中平蔵が金融相に就いた後,銀行の不良債権問題はようやく解決に向かい,それにつれ景気は回復し,日銀は2006年3月9日,過剰流動性を生んだ量的緩和の解除を決めた。そんな時代の転換点に強制捜査は始まっている。

☆ そして前回,松尾検事総長の講話として記した部分とこの指摘は見事に一致する。規制緩和と過剰流動性を生むまでが,事前規制=監督行政の時代。量的緩和の解除は自己責任=事後制裁・救済の時代。その時代の転換点で金儲け主義の行き過ぎに国策捜査で鉄槌が下される光景を,さして事情を知らない一般市民に知らしめようという巨大マスコミの意図。これらが一連の構図として浮かび上がっている。

☆ 市場に係るものの端くれとして,守るべきものはあくまでも市場であり,市場を運営するフェアなルールである。再度繰り返すが,検察の目的がこれを守るものである限り支持する。しかし,それを逸脱して株主の正当な権利を抑制する方向に進むことを黙認助長するような姿勢を見せるなら,私はこの場を借りて断罪するだろう。

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